家族信託のセミナーなどに参加していると、説明の中で信託監督人や受益者代理人という言葉が出てくることがあります。語感から何となくわかるのですが、初級セミナーでは講師の方もこの分野はあまり詳しい説明をしないケースがほとんどです。しかし、とても大事な事項です。ズバリ申し上げますと、高齢者・認知症対策で上場株家族信託を設定する場合、信託監督人はあまり必要ではなく、できれば受益者代理人制度は導入しておいたほうがいいということになります。
信託法第132条に「信託監督人は、受益者のために自己の名をもって信託に関する(一部除外規定あり)一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。ただし、信託行為(信託契約)に別段の定めがあるときは、その定めるところによる」となっています。すなわち、信託監督人は、受益者のために信託目的が達成されるよう受託者を監視・監督する権限と義務を持つ人ということになります。一般的に信託監督人を選任するケースは、信託財産に賃貸アパートや貸しビルなどの不動産が中心であり、信託財産額も多く、管理もたいへんで、気づかいが必要な場合などがあげられます。別段の定めとして、受託者の交替、信託の変更、信託の終了、重要財産の処分など家族信託に関する重要事項の実施には信託監督人の同意を要する等の条文を入れて運用することができます。信託監督人には専門家を就任させる場合が多く、報酬額は成年後見監督人の報酬額を基準とするので、月額1万円~3万円程度かかります。
上場株家族信託に限って申し上げますと信託財産額が大きい又は管理がたいへんという場合を除けば、信託監督人の設置までは必要がないように思われます。
信託法第139条に「受益者代理人は、その代理する受益者のためにその受益者の権利(一部除外規定あり)に関する一切の行為をする権限を有する。ただし、信託行為(信託契約)に別段の定めがあるときは、その定めるところによる」となっています。
信託監督人は、①受益者のために受託者を監視・監督する義務と権限があります。受益者代理人は、受益者の意思判断能力が低下して意思決定が難しくなった段階で就任し、信託監督人が持っている①の義務と権限に加えて②信託に関して受益者が持つ重要事項への意思決定権限も持っています。受益者の意思を尊重して受益者の立場で受託者を監督し、受託者とともに意思決定が行えるので家族信託の継続性の確保の観点では重要な存在です。ただし、受益者代理人が就任した場合、信託に関する受益者の権利は受益者代理人がすべて代理することになるので、受益者はごく一部の基本的な権利しか行使できなくなります。この点は、留意するポイントです。
また、受益者代理人には、未成年や成年被後見人、被保佐人を除けば資格の制限はなく家族でも受益者代理人になれます。兄弟が二人以上いるケースで、例えば長男を受託者とし、二男を受益者代理人候補として定めておけば、受益者の判断能力が低下した場合、二男が受益者代理人に就任することにより、受託者である長男とともに家族で家族信託の運営に携わることができます。
ただし、受益者代理人制度は当初の家族信託契約で定めなければなりません。信託の途中からこの制度を運用することはできないので注意が必要です。