現在いくつかの証券会社で家族信託口の口座開設ができるようですが、ここでは、ある大手の証券会社の信託口口座の開設要件についてお話します。
① 「家族信託の契約書は公正証書で作成されていること」
証券会社から、信託契約書の法的有効性及び委託者の契約意思の有効性を担保するために信託の契約書は公正証書であることが求められます。
② 「家族信託契約書の内容について事前に証券会社に照会していること」
家族信託契約そのものは、比較的自由度の高い契約が設定できるのが利点ですが、証券会社で信託口口座を開設する場合には、その証券会社が規定する条件を満たす信託契約書を作成する必要があります。
③ 「専門家(士業等)が作成に関与した信託契約書であること」
家族信託契約を有効に運用するためには、明確にしておかなければならない契約条項がいくつかあります。単なる契約見本のコピーではなく、専門家の観点で契約内容が精査されたものであることを求められるからです。
④ 「委託者と受益者が同一人(委託者兼受益者)の自益信託であること」
家族信託では、課税の問題もあり当初は委託者と受益者が同一人である自益信託(この場合受益者へ課税されません)が一般的です。委託者と受益者が異なる他益信託では、受益権の贈与とみなされ受益者に贈与税が課されることになります。
⑤ 「当初の委託者兼受益者の死亡で信託契約が終了すること」
委託者兼受益者が死亡した場合に、配偶者等を2次受益者として受益権を引き継ぐ(他益信託)契約は、家族信託ではよく見かけるものですが、証券会社を交えた家族信託契約では、2次受益者への受益権引継ぎはできません。委託者兼受益者の死亡で信託契約は終了します。この場合、受益権の引継ぎに関して発生する可能性がある諸問題は考慮しなくていいので、その分シンプルな契約になるというメリットがあります。
⑥ 「委託者兼受益者、受託者が個人であること」
家族信託契約は、受託者を法人とすることも可能ですが、証券会社を交えた信託契約では、委託者兼受益者、受託者は個人であることを前提に契約書を作成します。
⑦ 「委託者兼受益者、受託者は日本国内に居住していること」
海外に居住している方を当事者に指名することはできません。
⑧ 「後継受託者の指名」
家族信託の受託者が、死亡その他のやむを得ない事情で受託者の任務が果たせなくなった場合に予め後継の受託者を指名するよう求められます。できれば予備の予備も指名できればいいのですが、これは容易ではないかもしれません。
信託口口座の具体的な運用について、ある大手の証券会社の事例を紹介します。
① 取引口座名義
受託者□□□□ 家族信託受益者〇〇〇〇
※□□□□は受託者名、○○○○は委託者兼受益者名、で受託者が申込みます。
② 委託者兼受益者、受託者の通常の証券口座
委託者兼受益者、受託者ともに、信託口口座を開設する証券会社の同一支店に通常取引が行なえる証券口座(特定口座)を保有していることが条件になります。
③ 信託口口座は一般口座
信託口口座は、一般口座になります。特定口座やNISAの申し込みはできません。
④ 振込先口座の指定
証券会社から他の金融機関への振り込みについては、委託者兼受益者名義又は、家族信託名義の口座に直接払い出すものに限られます。
⑤ 売買注文、入出金等
信託口口座における売買注文、入出金等は、受託者のみが行うことができます。証券会社は、信託契約の内容には関与せず、受託者の指示を実行します。
⑥ ネット取引
ネット取引は、行うことはできません。証券会社担当者と受託者の直接取引が原則です。
⑦ 証券会社からの連絡
証券会社からの諸連絡、取引残高報告書等の書類の送付は、受託者に対してのみ行われます。
⑧ 配当金受領方式
「株式数比例配分方式」に限定されます。