家族信託の終了については、信託法では第163条、第164条に規定があり、さらに家族信託契約書で定めた事由が生じたときに終了するとなっています。上場株家族信託の終了では以下の3つのパターンが考えられます。
上場株家族信託は、委託者兼受益者の生存中の資産管理を行う一代限りの家族信託なので、委託者兼受益者の死亡により終了します。また、信託契約書に、「一定の条件で上場株等を売却し、得た信託財産を高齢者施設の入居金に充当する場合は信託を終了する」というような定めておくこともできます。いずれにして委託者の意思に沿った信託の円満な終了です。
信託法第163条に信託の終了事由が述べられています。上場株家族信託に当てはめて考えると、家族信託契約書に別段の定めがなければ、以下のような状況が発生したときに信託は終了します。
① 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。
② 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。
③ 受託者が、信託財産が不足する場合の信託法の規定を準用して信託を終了させたとき。
④ 信託が、他の信託に併合させられたとき(別の信託と一本化したことにより消滅した場合)。
⑤ 委託者が、破産手続き開始の決定等を受けて信託契約の解除がなされたとき。
⑤ 信託行為(信託契約)において定めた事由が生じたとき。
信託法第164条には、「委託者及び受益者は、いつでもその合意により、信託を終了させることができる。ただし、信託行為(信託契約)で別段の定めがあるときはその定めるところによる」となっています。上場株家族信託では、委託者兼受益者の場合しかないので、委託者兼受益者の一存で信託を終了させることができるのが原則です。
ところで、別段の定めとして、受託者の立場を考慮して受託者と受益者の合意により終了すると定める場合もままあるケースと思われます。しかし、上場株家族信託では、受託者の暴走を抑止する及び家族信託契約が遺言書の役割を持っていることなどを考慮すると、いざという時は委託者兼受益者の一存で家族信託を終了することができるように定めておくほうがよいでしょう。
もう一つ、上場株家族信託で受益者の意思判断能力が低下してしまった場合の問題があります。この場合、受託者の監視が難しくなり、いざというときに信託を終了させることもできません。この対応策として、信託契約書で受益者代理人を定めて置き、受益者の権利を守ってもらうことが可能です。家族信託の終了も受益者代理人がその任を行っている場合は、受託者と受益者代理人の合意で信託を終了することができると定めておくことも可能です。
家族信託の終了はよく検討しておくことが大切です。
家族信託は、信託が終了すればすべて終了ではなく、信託終了時の受託者(清算受託者)が信託の後処理としてすべきことを完了したときに本当の意味での終了になります。清算受託者の主な職務は以下のとおりです。
① 現務の結了
② 信託財産に属する債権の取立て及び信託財産に係る債務の弁済
③ 受益債権に係る債務の弁済
④ 残余財産の給付
上場株家族信託の場合、先物取引やFX取引を職務としていなければ債権・債務の関係は通常は発生しないと思われます。株主配当については、配当の権利発生日から配当が行われる日までの間に信託が終了した場合は、遅れて発生する配当金の入金先としての信託口口座を維持しておく必要があります。
清算処理の中で重要なことは、残余財産の給付になります。
信託が終了し、清算も終了した時点で残っている財産が残余財産となります。信託法では、「残余財産は信託契約に残余財産受益者又は帰属権利者の定めがあればその者に、定めがない場合や定められたすべてのものがその権利を放棄した場合は委託者又はその相続人等に、それでも決まらない場合は清算受託者に帰属する」となっています。
上場株家族信託では、家族信託契約書で、帰属権利者と引き継ぐ財産の比率を記載しておくのが一般的です。信託財産として本人の財産から分離した財産について、残余財産の帰属について誰にどれだけの比率で残余財産を引き継がせるのかを指定しておくことは、残余財産についての遺言と同様の効果を発揮することになります。また、税務上の処理も相続と同等に扱われるので、帰属権利者が相続人として相続税を支払うことになります。
残余財産の給付は、証券会社の信託口口座の上場株式等を帰属権利者へ株式移管するように証券会社に依頼することで行います。